「怖いくらい通じるカタカナ英語の法則」読んでみた
記憶術を発信するに必要な脳の情報を集めている時、この本を見つけました。
私もカタカナで英単語を覚えた派。そして発信も始めたところです。
しかし、この累計10万部を記録したこの本はそれをはるかに超えるものでした。
目次
著者のプロフィール&上梓に至った背景
池谷先生は東京大学薬学部教授。薬学博士として主に脳の研究をされていて論文も本も様々出しています。文部科学大臣表彰をはじめとして輝かしい経歴の持ち主です。
でも、英語の先生ではありません。それどころか自分は英検なら4級程度、TOEICやTOEFLは論外と語られています。
その状態で医学研究のために渡米したので悪戦苦闘。いくら勉強しても全く通じない言葉の壁にぶつかていたそうです。
その壁に悩まされながら、ある日「ハゼゴン」と同僚から声をかけられたそうです。一瞬意味も分からなかったのですが、 それは How is it going ? だったわけです。
そこからがカタカナ英語のスタートだったそうです。
本の構成
この本は下記に分かれています。本の目的はおそらくカタカナの読み方を広める事で、それが実践編となり一番多くのページを割いています。
- はじめに
- 意識改革編
- 実戦編
- 法則編
- 理論編
実戦編は I’ve got to go ⇒ アイガーラゴウ など、文例を挙げて、その方かな読みと説明です。何度もカタカナ語を口ずさむ事によりネイティブ発音に近づいてゆく、その練習をするものです。
法則編は、そのカタカナをつくるための方法です。例えば animal は「アニマル」ではなく、「エネモウ」と発音した方が通じます。
そこには法則があり、最初のAは「ア」ではなく「=エァ」の方が近く、それで「エ」と発音をする。発音記号では æ と表記されるものです。
また、最後のLはラ行の法則に従って「ウ」と発音するわけです。
このように、新たに単語の発音を覚えるときのカタカナ読みの手法が記されています。
そして、理論は専門領域の脳の話です。
本の読み方は3種類
この本は読み人それぞれに読み方が変わってくると思います。
第1に英会話のリスニングやスピーキングの練習です。これは応用編を繰り返し読んでゆく事だと思います。
ジョン万次郎の「掘ったイモいじるな」=What time is it now? という記憶方法のように、とにかく日本語で例文をまず覚えてしまう方法です。
第2に、法則を使ってカタカナ語を作ってゆく方法です。これこそが応用で、無限に広げてゆく事ができます。
そして第3が、言語と脳の関係を知るという事です。これは、意識改革編と理論編の両方で楽しむというものです。
この本の紹介の仕方としてはもしかしたら間違っているのかもしれませんが、この第3についてとても興味を持って読んでしまったので、今回はこの解説をしたいと思います。
理論編
この本を上梓したそもそもの理由は、冒頭にも書かれている英語の上達はあきらめようというものでした。
それは、脳科学から見て努力は報われない可能性が高いという事からきています。
それにはまず、9歳の壁という物があります。これは一般的にも知られている事で要は子供の脳が作られる頃ならばネイティブの言語として脳にインプットされるというものです。
これは多くの実験結果から明らかになっている事ですが、もう一つ知られていない事実がありました。それが遺伝的影響という事です。
例えば日本に育った親が産む子どもには既に日本語が組み込まれているというのです。妊娠しているお腹の中の子どもに聞かせるというのと訳が違います。
その研究結果も示し、とにかく日本人として生まれた時に既に日本語の言語を中心にする脳を持っているという事です。
その科学的な根拠もあり、自分の発音はいくら勉強してもアメリカでは通じない事が分かり、その上で先のカタカナ語なら通じる。これしかない、との思いに至ったそうです。
そして、その科学的根拠に深く切り込んでいます。
バイリンガルとの脳の違い
日本語と英語での脳内での活動は違う。その根拠となる研究結果が示されています。例えばこのような事です。
・日本語と英語では脳の活動域が異なる
日本語を母国語とする日本語ネイティブと、英語を母国語とする英語ネイティブの人間の脳の働きそのものが違うという事です
・高校以降の英語習得では、別の言語野ができる
小さい頃に2か国語を習得したバイリンガルの人の脳は1箇所の言語域なのに対し、後から2つ目の言葉を習得すると新たに言語域が脳内にできる
・同じ英文を読んだときの活動域が違う
日本語ネイティブの人と英語ネイティブの人が同じ英文を読んだ時に、脳の反応が違ってくる
・英語を使う時、日本語はシャットアウト
バイリンガルが片方の言語を使っている時は、もう一方の回路はシャットアウトしているようだ。※この回路については結論が出ていないとの事
そして、言語そのものの脳内での活動の違いについても触れています。
言語そのものの違い
英語が聞き取れない理由は、日本語に比べて3倍もの母音を持っている事。子供の頃から耳にして発音を聞いて脳内で処理できるようになっているネイティブのようにはなれないという事です。
しかしながら更に踏み込んでゆくともっと面白い事がわかります。言語自体の持つ特性で言葉を聞いてそれを理解する方法が違うというのです。
日本は推理の言語、英語は聞き取りの言語
英語は日本語に比べて3倍の母音を持つ。それは裏を返せば同じ読みで意味の違う単語がやたらに多くなるという事。
例を挙げているのが「隅田川のかこうまでかこうする」という言葉。この「かこう」という言葉は、火口 加工 書こう 河口 囲う 下降など候補があります。
さらに会話の中では、過去 格好 確固 観光 なども候補にあがります。日本人はこの数多い候補の中から自然に意味を推理して理解をするというのです。
それは英語ネイティブの人にはできない。英語では発音自体に意味の違いが含まれているので推理する必要がないからです。
これを日本語ネイティブ側から見ると推論しない発音イコール意味の理解となると、もともと脳に備わってないものだというのです。
日本人の英語がダメな理由
書店に並んでいるのは「才能のある人だけが習得できる本」だと言っています。
英語での受験では成功したものの実際の英会話では完全な脱落組。そんな私にはこれがとても響きました。
周りでも英会話学校に通って挫折したり、留学や海外赴任帰りでも誰一人として流暢な英語を話せる人はいない。その理由がここにあったわけです。
そして、この本を書いたわけも良く分かりました。池谷先生の影響力に比べたら非力そものもですが、自分でもカタカナで覚える英単語をはじめた理由と一緒だったのです。
とにかく、これこそが日本の英語力を高める秘訣。そんな気がします。教育界がカタカナ英語は邪道としている中で、これは心強い本でもあります。一人でも多くの人に読んで欲しいと思います。